
前脚の欠けたトカゲの物語。

モノを売っていると色々なストーリーが生まれる瞬間に立ち会うことがあります。
まさにその瞬間に直接出合える幸運なタイミングもありますし、
お買い上げからしばらくしてお客様からご報告いただくときもあります。
お買い求めいただいたモノに対してのストーリー。
モノを介した人と人のストーリー
販売している僕らとストーリーが生まれるときもあります。
そして、そのストーリーの誕生は対面販売だけとは限りません。
直接お顔を拝見することの無いWEB通販でもそういったストーリーが生まれることがあります。
今回ご紹介させていただくのは、ご主人様への誕生日プレゼントをご注文をいただいた一組のご夫婦のお話。
2月のある日、WEBより1件のご注文をいただきました 。
ご注文の商品はフランスからやってきたシルバーメタルのトカゲのヴィンテージブローチ。
ご注文いただいた際の備考欄にはこのように書かれていました。
「夫への誕生日プレゼントに求めました。
包装時にリボンなどのご配慮を頂ければ幸甚です。
どうぞよろしくお願い致します。」
色々な贈り物のかたちがあり、全てのお客様がコメントを下さるわけではないですが、全て大事な方への気持ちのこもったプレゼントだと思います。でもこのようにコメントをいただけると心なしかラッピングする自分の手にも少し力が入ります。
そして、贈り物に限らず自分たちがお届けするすべての商品に、自分たちが知ることがない様々な背景があるんだとあらためて思わせてくれる瞬間でもあります。
そして、今回いただいた商品には1つ問題がありました。
当店で取り扱いしている商品は年月が経過したヴィンテージが多くなりますが、モノによっては以前のオーナーが使っているうち、もしくはデッドストックとして永らくしまわれている間に一部分が欠けたり、プリントが剥げたり、いわゆるダメージと呼ばれるものが存在します。
今回ご注文をいただきましたトカゲのブローチは前脚が1本欠損しているというダメージがありました。
商品ページにはもちろんその旨記載してはいますが、お客様によっては記述を見落とされることもあります。
特に今回は贈り物ということでご注文をいただいていたのでもし見落とされていた場合、
相手の方がラッピングを開けたときに壊れていてがっかり、みたいな状況になっては大変と思い、
商品手配のメールにその旨を書き添えさせていただき、しばらく荷物の出荷を待ってみることにしました。
今回はありがたいことにお客様から数時間のうちに返信をいただくことが出来ました。
「早速のご返信をありがとう存じます。
以前(もう20年ぐらい前かしら)オーストリアの蚤の市にて二人でピンブローチのトカゲを求め、先日、しっぽがどこかに引っかかって折れちゃった(まさにトカゲのしっぽ切り)と主人が申しており、
この度コルネさんに飛びついた次第です。そして後からよく読んだら前脚が…とのことで、あらほんとだ!写真でも気が付かなかったというワタシ。。。
でもなんだかご縁を感じます。
主人の誕生日は一ヶ月先ですので、少し手元に置いておいて、フランスでの来し方をとかげちゃんに袋ごしに聞いてみようと思います。」
なんと、ありがたいお言葉。その日の夕方、トカゲは運送屋さんに連れられて旅立っていきました。
そして何事もなく1か月が過ぎ、あのトカゲ大丈夫だったかなあ、と思いながら簡単なお伺いのメールをさせていただいたところ、すぐお返事をいただけました。
「明日の主人の誕生日にご報告しようと思っていました。
欠損のこともあるので、気に入らないようだったら付けなくてもと
誕生日前に見せてみましたところ、
「しっぽ欠損のあとは足かぁ 笑笑笑」
と うけてくれました。
さっそく使ってくれています。
ご心配頂きご親切感謝します。」
なんというユーモア。この奥様にしてこのご主人。なんと素敵なご夫婦でしょうか。なんか、心がほんわかとして優しい気持ちになりました。
今回、ご本人様の承諾を得ることが出来ました。こちらのダンディな男性がそのご主人です。

フランスの伊達男といった優しくも色気のある佇まい。ジャケットとブローチの合わせも本当に素敵です。笑顔からもお人柄が伝わってきます。
良いところにもらわれていったなあ、と嬉しくなります。
H様、本当にありがとうございました。
こういうストーリーが生まれる現場に立ち会うと、自分もこういう素敵な大人になりたいとか、もう少し仕事頑張ろうとか思えますね。
僕がお伝えできるのはここまでのエピソードですが、今回ご主人様の手に渡った前脚の無いトカゲは、これからも胸元の定位置で色々なストーリー、嬉しいこと、ちょっと腹の立つこと、時には少し悲しいこと、そして楽しいことを眺めていくのだと思います。