ハンジコレクション

コルマール出身のオラクル・アンシが描くアルザスの子どもたちが楽しい「ハンジ」の食器。可愛いだけではないストーリーを知ると、少し感傷的な気持ちと同時に愛着がさらに増していきます。

見る人全てを笑顔にさせ、温かな気持ちにさせてくれる「Hansi」の絵。 実はその裏には歴史に翻弄された一人の男性の物語がありました。

「L’oncle Hansi(オンクル・アンシ=アンシおじさん)」ことジャン-ジャック・ヴァルツが生まれたのはアルザス地方のコルマール。コルマールは宮崎駿の「ハウルの動く城」のモデルにもなったことで有名な村で世界遺産にも登録されている美しい村です。 彼は故郷を愛し、アルザスの風景をたくさん描きました。葡萄畑や木組みの家、コウノトリなどの牧歌的な風景、そして大きな黒いリボン状の帽子(coiffe)と、白いブラウスにエプロンドレス。伝統的なアルザスの民族衣装に身を包んだ少女たち 。
 ※当店では画家としての彼はフランス語読みの「アンシ」、食器ブランドは輸入元の表記に従いドイツ語読みの「ハンジ」とさせていただきます。

フランスとドイツの間を揺れ動くアルザスとアンシの生涯。

普仏戦争(1870-71/かつてドイツの東部にあったプロイセン王国とフランスにより行われた戦争)敗北から第一次世界大戦に勝利するまでの約半世紀、フランスは、「失われた領土アルザス、ロレーヌ」に対して、ひとつの強い記憶を持っていました。 

 それは「アルザス、ロレーヌの人々は今でもフランスを愛していて、彼らはフランスに復帰する日を待っている」というもの。この記憶の構築に大きな役割を果たしたのが、アンシと、彼が描いた風刺画や絵本でした。

第一次世界大戦が勃発した時、彼はすでに41歳でしたが、進んでフランス軍の偵察部隊の先導を勤め、アルザス南部に侵攻したフランス軍と行動を共にして、ひとつの村がフランス軍の手に落ちるたびに、それを「解放」としてスケッチブックに書きつけたほどフランスを愛しており、自分以外の多くのアルザスの人々もそう思っていると信じていました。これが 第一次大戦終結直後の1918年12月のこと。 

 しかし今日の研究では、当時のアルザスは彼が描いたフランス志向一辺倒ではなかったことがわかっています。たしかに彼の作品はアルザス地方でも成功をおさめており、戦争勃発時にドイツ軍の徴兵を逃れフランスへと逃亡した若者もいましたが、それは少数派で、実際はドイツ兵として戦場に赴いた若者のほうが圧倒的に多かったそうです。「アンシ」 が描き出し、フランスに紹介したアルザス像は、彼の、そしてフランス側の願望であり、アルザスを正確に描いたものではなかったようです。そしてそれを証明するように、戦後に再統合時に、無理やりフランス語を流通させ、性急にフランスに染め戻そうとしたフランスとアルザスの対立のなかで彼の人気は衰えていきます。

 一時は国民的画家(絵本作家)として熱狂的に受け入れられ、一世を風靡したアンシの晩年は寂しいものだったようです。1951年の逝去時、新聞は「彼はその才能の終焉から35年後にその死を迎えた」という記事を載せました。

語り継がれるアンシのイラスト。

アンシの名は、現在のフランスではもはや過去のものであり、その詳しい業績を知る人は限られています。しかし今でも、フランスでは彼の描いたイラストを一度も見たことがないという人はほとんどいないぐらい有名です。 

民族衣装に身を包んだ少女たちのイラストは、今日でもアルザス地方を表す際に頻繁に使われるそうです。

今も作り続けられるハンジコレクションのテーブルウェア。

「ハンジ」の食器はアンシが残した愛らしい子どもたちのイラストを使い、1834年に創業したフランス・アルザスにある老舗工房で今も作り続けられています。現在は、5代目、6代目の棟梁に率いられた職人たちが愛情込めて手作業で制作しています。 アルザスに生まれ、アルザスを愛し、そして晩年にはアルザスに見捨てられてしまう……。時代に翻弄されるように数奇な運命をたどったアンシ。
こんなにかわいくてほっこりするアンシのイラストの背景に国家をも動かしてしまうような大ムーブメントが隠されているとはしっかりと調べてみるまで、思いもよりませんでした。そういった背景を踏まえたうえで眺めてみると、可愛いイラストがまた違った深みを持って迫ってくるから不思議です。 

単純に絵柄の可愛さにほっこりとしながら使っても良し、アンシが生きた時代背景に思いを馳せながら使っても感慨深い。素朴な笑顔をたたえる少女たちの背景にストーリーが詰まったハンジの食器。その歴史をすべて包み込みながら温もりを感じさせる優しい陶器の手触りは、長く使い続けたい魅力に溢れています。 


参考文献:中本 真生子『L’oncle HANSIの世界 -「フランスを愛するアルザス」の物語-』